
2026 年の冬季五輪はイタリアで開催されています。
その舞台となるアルプス山脈の成り立ちとコルティナ・ダンペッツォについて紐解きます。

冬季五輪はアルプスが舞台

2026年2月に開催されている冬季五輪は、図1に示すように、 イタリアのミラノおよびイタリア ・ アルプスに位置する各都市で行われます。冬季五輪といえば、 スキーやジャ ンプなどの山岳競技が多く、これが夏季大会との大きな違いです。
では、その舞台となるアルプス山脈は、どのようにして誕生したのでしょうか。今回はその疑問にお答えするため、アルプス山脈の成り立ちと、開催地のひとつであるコルティナ・ダンペ ッツォについてご紹介します。
大陸プレートのぶつかり合いでできたアルプス山脈
アルプス山脈は、かつて海だった場所に堆積した物質が、長い年月をかけて固まった岩石から形成されています。標高4000 mを超える雪をいただく壮大な山々が、かつては海の底だったというのは驚きですが、実際にアルプスの岩石からは、かつての海洋生物の化石が数多く発見されています。
では、アルプス山脈はどのようにして誕生したのでしょうか。今から約2億年前、現在のヨーロ ッパとアフリカの間には、「テチス海」と呼ばれる広大な海が広がっていました(図2) 。テチス海は赤道付近に位置していたため水温が高く、海底にはサンゴや有孔虫など、カルシウムの殻をもつ生物の遺骸が長期間にわたっ て堆積しました。これらがやがて固まり、現在見られる石灰岩などの岩石となったのです。

その後、アフリカ大陸から分離した大アドリアプレートが北上し、約1億年前からユーラシアプレートの南端に衝突を始めました。この衝突により、ユーラシアプレート側では、図3に示すように、地中海沿岸に沿って巨大な「しわ」が形成されました。この強い圧力によって、かつてテチス海にたまっ ていた石灰岩の地層が押しつぶされ、曲がり、持ち上がって山脈が形づくられていきました。この過程で誕生したのが、現在のアルプス山脈、カルパティア山脈、バカン半島のディナルアルプス山脈、そしてギリシャのペス半島などです。

さらにこの衝突の際には、古い地層が新しい地層の上に乗り上げる「衝上断層」が数多く形成されました。特にスイスにある「グラールス衝上断層」では、図4に示すように、約2億5000万年前の古い岩石が、約5000万年前の新しい岩石の上に乗るという、逆転した地層構造が見られます。このような構造は「ナップ構造」と呼ばれ、アルプス山脈の地質を特徴づける重要な要素です。

そして、新生代第四紀(約258万年前)の氷河期には大きな氷のかたまりが山を削り取り、谷が広がったり、岩や砂が積み重なったりしました。こうした働きによって、今のようにとがってそびえるアルプスの姿ができあがったのです。このように、アルプスの形成過程をたどることは、現在の地球の構造や進化を理解する上で、地質学的に非常に重要です。アルプスは、プレートテクトニクス理論の発展にも大きく貢献した地域のひとつとされています。
特にグラールス衝上断層を含む「サルドーナ地殻変動地帯」では、地層の逆転や、山が押し合ってできた跡を立体的に見ることができます。こうした貴重な地形が高く評価され、ユネスコの世界自然遺産にも登録されています。
コルティナ・ダンペッツォも世界自然遺産の街

2026年の冬季五輪は、「ミラノ・コルティナ大会」とも呼ばれています。これは、ロンバルディア平原に位置する都市ミラノと、アルプス山中にあるコルティナ・ダンペッツォという、異なる地理的特徴をもつ2つの地域にまたがって開催されることに由来します。
アルプス側のメイン会場となるコルティナ・ダンペッツォは、1956年の冬季五輪開催地でもあり、イタリアにとってウィンタースポーツの〝聖地〟とも称される街です。
コルティナ・ダンペッツォはウィンタースポーツの聖地であると同時に、アルプスの雄大な山岳景観を楽しめる観光拠点としても最適な場所です。というのも、この街は図5に示すように、「ユネスコ世界自然遺産 ドロミーティ山塊」の中央に位置しているからです。
「ドロミーティ山塊」という名称にはあまりなじみがないかもしれませんが、その風景写真を目にしたことがある方は多いのではないでしょうか。パソコンの壁紙として使っている人もいるかもしれません。写真のように、針葉樹林の上に鋭く突き出し、雪をいただいた巨大な岩の峰々は、青空とのコントラストも鮮やかで、思わず目を奪われるほどの美しさを誇ります。

では、この突き出した岩塊は、一体どのようにしてできたのでしょうか。この地がユネスコの世界自然遺産に登録されているのは、こうした特徴的な岩塊の存在が大きく関係しています。
先にアルプスの成り立ちについて触れた際、石灰質の堆積物が岩石となって山脈を形成したとお話ししましたが、ドロミーティ山塊を構成しているのは、「ドロマイト( 苦灰岩 くかいがん)」と呼ばれる岩石です(図6)。
一般的な石灰岩は炭酸カルシウムでできていますが、ドロマイトはその一部のカルシウムがマグネシウムに置き換わり、炭酸マグネシウムを含むのが特徴です。ドロマイトは通常の石灰岩よりも硬く、風化しにくい性質があるため、鋭く切り立った岩峰や塔のような形をした山を形成しやすくなります。これが、ドロミーティ山塊に見られる壮麗で屹立した山岳景観を生み出しているのです。

ちなみに、ドロマイトはセメントやガラス、陶磁器の原料として、またマグネシウムを活用した土壌改良剤や健康サプリメントとしても幅広く利用されています。ただし、世界自然遺産であるドロミーティ山塊で採掘が行われているわけではありません。
この「ドロマイト」という言葉には、少々ややこしい背景があります。まず、ドロマイトを発見したのは18世紀のフランスの地質学者、デオダ・ドゥ・ドロミューという人物です。彼の名にちなんで、この鉱物は「ドロマイト」と名付けられました。そして、彼がこの鉱物を最初に発見した場所が、現在のドロミーティ山塊だったのです。
このため、「ドロマイト(=ドロミューの石)」でできた山々の地域という意味で、地名が「ドロミーティ」と呼ばれるようになりました。通常、鉱物や岩石には発見された土地の名前が付けられることが多いのですが、ドロミーティの場合はその逆で鉱物・岩石名が地名の由来になっているのです。ちなみに、ドロマイトが発見される以前、この地域は「モンティ・パッリディ(=淡色の山々)」という名前で知られていました。
また、ドロマイトという名称は少し紛らわしく、岩石名としての「苦灰岩」と、鉱物名としての「苦灰石」の両方に用いられます。そのため、文脈によっては、ドロマイトが岩石を指しているのか鉱物を指しているのか、判別しにくいこともあります。
コルティナと世界自然遺産
以上のように、コルティナ・ダンペッツォは、ユネスコ世界自然遺産に登録されているドロミーティ山塊の中心に位置し、地球の歴史を物語る貴重な自然遺産へのアクセスが良好であるうえ、ウィンタースポーツも盛んな地域です。まさに、地質学・スポーツ・観光の三拍子がそろった魅力あふれる場所と言えるでしょう。
2026年の冬季五輪では、さまざまな熱戦が繰り広げられています。それとともに、競技の舞台となるこの地の雄大な自然や地質的な背景にも、ぜひ目を向けていただければと思います。
●出典
1) 時事通信社電子版:〝ミラノ・コルティナ五輪まで1年 異例の広域開催、イタリアで20年ぶり〟(2025.02.05配信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025020300625&g=spoをもとに作成
2) 浜島書店編集部(2012)「ニューステージ新地学図表」、浜島書店をもとに作成
3) ResearchGate GmbH.:”Decipheringpaleogeography from orogenicarchitecture: Constructing orogensin a future supercontinent as thoughtexperiment.” June 2021 American
Journal of Science 321(6):955-1031
https://www.researchgate.net/をもとに作成
4) 高木秀雄(2018)「世界自然遺産でたどる美しい地球」、新星出版社
5) UNESCO World Heritage Convention https://whc.unesco.org/en/list/1237/maps/をもとに作成
技術士(応用理学部門:地質)
地盤品質判定士
2006年ジャパンホームシールド株式会社に入社、日本全国の住宅地盤の安全性評価業務に携わる。2011年より同社地盤技術研究所研究員、現在に至る。
趣味:気になる地形をバイクで見に行くこと。バイオリン。