長く暮らすことを考えて高い費用でせっかく建てた住宅が、住んでいるうちに傾いてしまうなんてことは避けたいものです。住宅の傾きにはさまざまな原因がありますが、中でも多いとされるケースは地盤沈下でしょう。
家が傾くことを未然に防ぐためにも、地盤沈下について知っておくことは大切です。そこで今回は、地盤沈下の原因や事前にできる対策についてご紹介します。
地盤沈下とは?
地盤沈下とは、特定の地層が圧縮して文字通り地盤が沈んでいく現象を指します。地盤沈下には「広域での沈下」と「局地的な沈下」の2種類があります。
広域での地盤沈下
広域で地盤が沈む原因としては、地震などの地殻変動による自然現象を要因とするものや、地下水の多量のくみ上げや鉱物・天然ガスなどの採取に伴う掘削による人為的要因が挙げられます。地盤沈下は、環境基本法において7大公害の1つに数えられています。
地震
自然現象による地盤沈下でいうと、大地震による地殻変動が挙げられます。2011年東日本大震災により、岩手県、宮城県、福島県の太平洋沖で広範囲の地盤沈下が起こったのは皆さんご存知かと思います。
また、地震が液状化現象の引き金となるケースもあります。東日本大震災の際は、千葉県浦安市などにおいて液状化による地盤沈下が見られました。2024年能登半島地震では、石川・新潟・富山・福井県など広範囲に渡って、液状化現象が発生しました。
地下水の過剰な汲み上げ
人為的要因による地盤沈下の例として、地下水の過剰な汲み上げによる地層の変形があります。地下水を過剰に汲み上げて地下水位が下がると、粘土層から地下水の通り道である帯水層へ水分が移動することにより粘土層が収縮し、重みに耐えきれなくなった地盤が沈むというメカニズムです。
この地盤沈下を防ぐため、一部の地域では「建築物用地下水の採取の規制に関する法律」や「工業用水法」といった規制が敷かれています。地下水のくみ上げには地下水採取届出書の提出が必要となり、法律・条例などによる揚水規制が一定の効果を挙げてきました。しかし、行政の指導による節水を続けた結果、地下水位が上がり、地下室が浮くなどの問題も見られます。
広域の地盤沈下を測定するため設置されるものに「水準点 」があります。水準点は公共工事の測量などにも使われますが、地盤沈下の定期的な観測の基準としても使われています。水準点によって、地盤沈下が継続しているのか沈静化しているのかが計測できます。
全国の地盤沈下の恐れがある区域や地下水の情報は、環境省が各都道府県の協力を得て「全国地盤環境情報ディレクトリ」として公開しています。これから購入しようとしている土地の位置する区域に、地盤沈下の恐れがあるかどうかをしっかり把握しておきましょう。
局所的な地盤沈下
住宅が傾く原因の局所的な地盤沈下の原因としては、近隣の工事の影響や盛土や埋戻し土による圧密沈下が挙げられます。局地的な沈下は一部だけ傾きを起こすケースが多く、不均等な地盤沈下の状態のことを「不同沈下」と呼びます。
不同沈下の要因がある土地に対策をせずに建物を建てると、数年以内に地盤が沈下する可能性がありますし、建築直後に沈下するということもあります。建物が傾いてしまう不同沈下は、「局地的な沈下」に多く見受けられます。
近隣の工事による地盤強度の低下
近隣で土を掘り返すなどの工事を行うと、周囲の地盤の土圧が下がり、地盤強度が弱まります。これを避けるために対策したうえで工事をするのが一般的です。しかし、水分を多く含む地盤の場合は、対策をしても周囲の地盤に影響が出てしまい地盤強度が弱くなることがあります。
地下空洞の崩落・陥没に伴う周辺の地盤沈下も、その一例です。
陥没とは、坑道跡や下水管、トンネル工事などの掘削による地下空洞がある場所で、振動などにより支えきれなくなった地盤が崩落・陥没する現象です。2016年に発生した福岡県博多駅前道路の大規模な陥没事故や、2020年に発生した東京都調布市の道路陥没事故では周辺の住宅の壁に亀裂が入ったことなどが広く報道されました。
圧密沈下
「圧密」とは、土を構成する成分(土粒子・空気・水など)のうち、特に水(間隙水)が時間とともに抜けていくことにより、土が収縮して体積が減少することを指します。
盛土や埋戻し土といった人工的に作られた土地の土は、自然に堆積してできた土に比べると時間の経過が少なく新しいため、収縮しやすい傾向があります。一般的な不同沈下は、土の圧密によって発生します。
不同沈下を引き起こしやすいケースとは?
1.軟弱地盤へ盛土している
軟弱地盤に盛土をすると盛土の重みで軟弱地盤の空気や水分が抜け、盛土の下の軟弱地盤は沈下します。また、盛土自体も時間とともに収縮します。盛土には建物の重みも加わります。特に腐植土が分布する軟弱地盤に盛土をした地盤は沈下しやすい傾向にあるため、注意が必要です。
ただし、軟弱地盤に盛土した土地でも、適切な造成工事を行えば沈下をある程度防ぐことができます。比較的規模の大きい盛土地では、沈下が起こらないような対策をした造成工事が多く行われています。
一般的に、沿岸地域や河川付近の低地の地盤は堆積してからの年月が比較的浅いため、山などに比べ軟弱であるとされます。(沖積層)
2.切土・盛土で造成した土地に家を建てている
山や丘を造成して住宅地とする場合、山の一部を切り崩した土を盛土として再利用し、傾斜部分をならして造成されます。この切土と盛土の境界をまたぐ形で家が建築されると、地質や地盤の硬さに違いがあるため、新しい土を入れた盛土側が沈下しやすい傾向がみられます。
また、雨水などで盛土側の土が圧縮し、地面が下がることで家を傾かせる原因になることもあります。
3.埋戻し土等の締固めが不十分
もともと建物や構造物、大きな樹木などがあった土地や、池や井戸・地下室などのあった場所を埋め戻して土地造成した場合、その土地の締固めが十分にされていないと不同沈下を起こすことがあります。
4.盛土に不適切な材料が混ざっている
コンクリートガラやゴミ、木片など適切でない材料が混入した盛土の場合は土の中に隙間が多く、沈下の原因となります。
よくある沈下事故の例
地盤沈下による被害とは?
地盤沈下から受ける被害は、直接的被害と間接的被害があります。具体的な被害について、それぞれご紹介します。
直接的被害
- 建物の傾き、ひび割れ
- 道路との間に隙間ができる
- 配管の破損によるライフラインの停止
- 建物が地面から浮く「抜け上がり」の発生
- 治水施設の損壊による水害・農業用地へのダメージリスク
不同沈下が起こると、建物の傾斜に加え、ひび割れが発生します。
道路にも凹凸が生じ、住宅と道路の間に隙間ができることもあれば、道路と橋げたとの間に段差が生じ、橋が使えなくなることもあります。
道路の下を通る配管の破損も深刻です。ガスや上下水道など、ライフラインがストップして、近隣住民の生活に深刻な影響を与えかねません。
また、建物やマンホールの「抜け上がり」という現象も発生する可能性があります。抜け上がりとは、地盤沈下や液状化現象などが原因で地面は下がっても、固い支持層まで杭を打った建物は沈下せずに地面よりも高くなることです。抜け上がりが酷い場合、地面と建物の間に段差ができるため、家とつながっている配管が高低差により寸断されて、ライフラインがストップするかもしれません。
治水施設や設備、かんがい排水施設の損壊も考えられます。治水施設が破損してしまうと、豪雨などに見舞われたときの水害が心配されますし、農業用地へのダメージも計り知れません。
間接的被害
- 浸水被害
- 傾いた建物に住むことによる身体の不調
- 建物の資産価値の低下
間接的被害もさまざまです。予想される大きな被害は浸水被害です。浸水被害は、地表面と河川、排水路の水面との高低差がなくなり排水効率が悪くなり発生します。排水効率が悪くなると、小雨でも洪水・浸水が発生するようになり、日常生活や農業などに支障をきたしてしまいます。
また、身体への影響も忘れてはいけません。不同沈下により傾いた建物に住み続けると、頭痛やめまい、自律神経失調症など身体に影響が出ることがあります。
不同沈下が起こると、建物の資産価値も低下します。「将来的に今の住居を売却して新しい住居の頭金にしたい」といった将来設計ができなくなってしまう可能性もあるのです。
事前に対策はできる?
建物の不同沈下は、事前対策が可能です。
- 事前に確かな地盤調査を行う
- 適切な地盤改良工事を実施
- 信頼できる会社の保証をつける
建てた後で、地盤の異常に気付いて対策工事を行うよりも、これらのポイントを踏まえて事前に対策することがリスク回避につながりますし、安心ですね。
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沈下修正工事の工法と費用は?
不同沈下が起こってしまった場合、その修正工事にはいくつかの工法があります。地盤状況により修正工法は異なります。影響を与える主な地盤の状況は以下の通りです。
- 沈下の原因
- 支持層の有無
- 支持層の深さ
- 沈下の進行状況
- 建物の基礎形状
それでは、地盤沈下における修正工事について、各工法の概要と費用について確認しましょう。なお、費用は面積60平方メートル当たりを想定しています。
鋼管杭圧入工法
工法の特徴
建物下の基礎を掘り下げて地中に鋼管杭を圧力で挿入し、建物を持ち上げる工事の方法。支持層が深さ30m以内に存在する場合に採用できます。
*費用 1000万円~
耐圧版工法
工法の特徴
基礎の下を掘って耐圧版と油圧ジャッキを入れ、水平になるよう調整する方法。安定した層が2m以下の浅さの場合、また基盤のN値が5以上の場合に採用できます。
*費用 450万円~
土台上げ工法
工法の特徴
建物の基礎と土台を切り離し、建物の土台から上をジャッキを用いて持ち上げ、水平調整する方法。地面を掘らずに済み、1週間程度で対応可能で費用も安く、工事中も住居に住み続けられる点が特徴です。
ただ、基礎修復が必要であり、建物の構造に影響を及ぼすことがあります。沈下していると再沈下の可能性があるため、地盤が安定し、沈下が終息していることが条件です。
*費用 100万円~
おわりに
今回は、地盤沈下の原因や事前対策についてご紹介しました。住宅の傾きを放置していると、暮らす人の不快感が避けられないだけでなく、住宅の構造材にひずみが生じ、ゆくゆくは家全体が変形してしまいます。
新築の家に住み始めて数年後、扉の建て付けに変化を感じたなどのケースでも、住宅が不同沈下している可能性があります。
建てる前にしっかり地盤の状態を確認し、適正な方法で家を建てることはもちろんですが、建てた後に万一の事態があった際も、早期に相談して確実に対策を行うことが重要です。