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関東平野の火山灰と住宅の関係
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プレートの衝突や度重なる火山活動による複雑な形成史をもつ箱根火山ですが、箱根を含む関東平野周辺の火山が、戸建て住宅にどのように関わっているかを解説します。

降り注ぐ火山灰が関東平野を形成

今からおよそ10万年前(箱根の場合、新期外輪山が形成されていたころ(1) )の火山噴出物は、現在の関東地方南部にあたる地域に火山灰となって降り注ぎました。当時の関東平野は今とは異なり、広範囲が浅い内湾や湿地でした。また、平野と山地の境界部分には、扇状地と呼ばれる玉砂利が堆積するゆるやかな斜面が形成されていました。

約10万年前の関東平野のイメージと現在の弊社オフィス(東京都墨田区)
約10万年前の関東平野のイメージと現在の弊社オフィス(東京都墨田区)
 

浅い内湾は波が穏やかで、湿地ではほとんど水流がないため、降り注いだ火山灰は水平に堆積します。扇状地に降り注いだ火山灰は、玉砂利がつくる平坦面をそのままの形で覆いました。

やがて水が引いて浅い海底が地上に姿を現すと、そこは一面の平坦な土地になりました。扇状地も平坦です。そして、これら2種類の土地が地上で一つに繋がることで、現在の広大な関東平野の原型ができあがったのです。

さらに、6万年、2万年と時代が下ってくる間も火山灰は降り注ぎ、関東平野に積もっていきました。関東平野の中央部にある武蔵野台地と呼ばれる場所では、10m以上もの厚みがあります。積もった火山灰は、やがて風化し赤茶色の粘土になります。この粘土のことを「関東ローム」と呼びます。

反対に、常に川が流れている、あるいは波が寄せてくる場所に関東ロームはとどまることができません。その結果、関東平野の中でも、関東ロームがある場所とない場所が生まれ、関東ロームが積もった分だけ地面の高さに違いが生じました。こうしてできた高台を「洪積台地」、関東ロームが積もらず河川が運んできた粘土や砂だけからなる低い土地を「沖積低地」と呼びます。

智蔵の模式断面図
地層の模式断面図
 

特殊な土 “関東ローム” とは?

では、これら「台地」と「低地」では、戸建て住宅を建てる上でどのような違いがあるのでしょう?

台地

台地では関東ロームが基礎を支えてくれます。関東ロームも粘土ですが、もともとは火山灰です。火山灰からはケイ素とアルミニウムが溶け出し、これらが結合することで「アロフェン」や「ハロイサイト」といった粘土鉱物が生成され化学的に結合します(2)。その結果、土粒子が骨格構造をもってまとまるため、土中の空隙が大きいにもかかわらず支持力が高いという特殊な粘土が生じます。こうしたメカニズムによって関東ロームの分布する地域の地盤は安定するのです。

土の骨格構造の模式図
土の骨格構造の模式図

また、低地の土より古い時代に堆積し時間の経過した土という点も地盤を安定させる効果があります。この効果を「年代効果」と呼びます。

低地

これに対し、低地は、土(地盤)が柔らかい粘土で出来ていますので、木造戸建て住宅といえども安定して建てることができません。こうした土地では、基礎の下に杭を打って支える必要が出てきます。

地盤調査時の注意点

標準貫入試験(N 値)やスクリューウエイト貫入試験といった現場調査では、空隙
が大きいという理由から、試験データは本来の強度より低くなる傾向があります(3) 。しかし、室内土質試験を行うと、戸建て住宅にとって十分な強度を持つことが確認できることがほとんどです。ただし、重機で強く練り返すと泥濘化するという、相反する性質も持つため、取扱いには注意が必要でもあります(4)

いずれにしても、関東ロームを扱う際は、土の特徴をよく理解したうえで調査データを解釈し利用することが望まれます。なお、関東平野以外にも日本の火山周辺にはロームが堆積していますが、これらも関東ロームとほぼ同様の性質を持つと考えても差し支えありません(5)

こぼれ話

東京都内の高級住宅地の代名詞ともいえる成城・田園調布・白金などの住宅街は、すべて関東ロームが積もる台地上にあります。これらの土地はそのブランドによって地価が高いだけでなく、地盤工学的にも高品質なのです。高級住宅街の名もダテではありません。

火山は我々に温泉や景勝地を提供してくれるだけでなく、戸建て住宅の安定にも寄与しているのです。

参考文献

  1. 地盤工学会 関東支部神奈川県グループ(2010)「大いなる神奈川の地盤 その生い立ちと街づくり」 , p.2 口絵2
  2. 高速道路調査会(1973)「関東ロームの土工 ‐その土質と設計・施工‐」, p.34
  3. 吉見吉昭(2006)「地盤と建築構造のはなし」, p5
  4. 直井正之(2002)「住宅をつくるための「住宅基礎の地盤」がわかる本」 ,p. 39
  5. 高速道路調査会(1973)「関東ロームの土工 ‐その土質と設計・施工‐」, p.34
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